ラムサール条約|Ramsar Convention

■ラムサール条約とは

ラムサール条約は、国際的に重要な湿地とそこに生息・生育する動植物の保全と賢明な利用を進める国際条約です。

正式名称は、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」ですが、多くの場合1971年にこの条約が採択されたイランの町の名前をとって「ラムサール条約」と呼ばれています。ラムサール条約ができた当初の目的は、水鳥類の渡来地として重要な湿地の保全に重点が置かれていましたが、議論を重ねるにつれ変化し、今では広く生態系として重要な湿地の保全を目指しています。

ラムサール条約に加入した国は、国内にある湿地を1ヶ所以上指定し、スイスにある条約事務局に登録することになっています。また、ラムサール条約は、登録湿地において湿地や動植物の保全を進めるために、各国がとるべき措置などを規定しています。2012年8月10日現在、締約国162ヶ国、登録湿地数2,046ヶ所、その合計面積は約193,553,062 ヘクタール に及びます。

 

■ラムサール条約の3つの柱:「保全・再生」、「賢明な利用」、「交流・学習」

ラムサール条約には条約の目的である、湿地の「保全・再生」と「賢明な利用」、そしてこれらを支え、促進する「交流・学習」という条約の基盤となる3つの考え方があります。

保全・再生

ラムサール条約では湿地を私たちの生活環境を支える重要な生態系としてとらえており、幅広く保全・再生するよう呼び掛けています。前述のとおり、条約ができた当初は水鳥の生息地としての湿地の役割が重視されていましたが、現在は生態系として重要である湿地の保全を目指しています。

賢明な利用(ワイズ・ユース)

「賢明な利用」とは、湿地の生態系を維持しながら、そこから得られる恵みを次の世代へと受け継いでいきながら活用することを意味しています。日本の条約湿地で行われている持続的な漁業や伝統的なカモ漁などが賢明な利用の例と言えるでしょう。

「賢明な利用」はラムサール条約の中核となる重要な考え方です。ラムサール条約では人による利用や立ち入りを完全に禁じるといった厳格な保護までは求めておらず、産業や地域の人々の生活とバランスのとれた保全を進めることや、人々と湿地とのつながり、そして歴史や文化を大切にすることが、湿地そのものを保全するために重要であると考えています。

交流・学習

「湿地の保全」と「賢明な利用」を促進するために、人々の交流や情報の交換、教育、普及啓発活動を進めることを決議しています。英語ではCommunication, Education, Participation, and Awareness (広報・教育・普及啓発)の頭文字をとってCEPAと呼ばれています。

 

■ラムサール条約の湿地の種類

ラムサール条約の特色の一つとして「湿地」を広く定義していることが挙げられます。日本語で「湿地」というと、尾瀬や釧路湿原などの湿原を思い浮かべる人が多いかもしれません。もちろんこれらの湿原も「湿地」に含まれるのですが、ラムサール条約ではサンゴ礁や藻場などの海域、地下水系、それにダム湖やため池、水田などの様々なタイプの水域を湿地に含んでいます。ラムサール条約では湿地のタイプを42種類にも分類していることからも、この条約が幅広い湿地を対象としていることがわかります。

 

■ラムサール条約湿地とは?

「ラムサール条約湿地」として登録するためには、加盟国が条約で定められた国際的な基準に従って湿地を指定し条約事務局へ通知する必要があります。指定された湿地は「国際的に重要な湿地に係る登録簿」に登録されます。

現在条約で定められている「国際的な基準」は次の9種です。

  • 基準1: 特定の生物地理区を代表するタイプの湿地、又は希少なタイプの湿地
  • 基準2: 絶滅のおそれのある種や群集を支えている湿地
  • 基準3: 生物地理区における生物多様性の維持に重要な動植物を支えている湿地
  • 基準4: 動植物のライフサイクルの重要な段階を支えている湿地。または悪条件の期間中に動植物の避難場所となる湿地
  • 基準5: 定期的に2万羽以上の水鳥を支える湿地
  • 基準6: 水鳥の1種または1亜種の個体群で、個体数の1%以上を定期的に支えている湿地
  • 基準7: 固有な魚類の亜種、種、科の相当な割合を支えている湿地。また湿地というものの価値を代表するような、魚類の生活史の諸段階や、種間相互作用、個体群を支え、それによって世界の生物多様性に貢献するような湿地
  • 基準8: 魚類の食物源、産卵場、稚魚の生息場として重要な湿地。あるいは湿地内外における漁業資源の重要な回遊経路となっている湿地
  • 基準9: 湿地に依存する鳥類に分類されない動物の種及び亜種の個体群で、その個体群の1パーセントを定期的に支えている湿地

出典:環境省『ラムサール条約と条約湿地』

なお、日本では国際的な基準に2つの要件を加えた、次の3つの登録要件を満たす必要があります。

  1. 「国際的な基準」のいずれかを満たしている重要な湿地である
  2. 将来にわたって湿地が保全されるよう、自然公園法、鳥獣保護法、種の保存法や河川法などの国の法律により担保されている
  3. 地元自治体などからの登録への賛意がえられている

日本では北海道から沖縄まで46か所の湿地がラムサール条約湿地として指定されています(2013年現在)。世界の国で比較すると条約湿地の数はイギリスに最も多く(169か所)、メキシコ(139か所)、スペイン(74か所)と続きます。

■沖縄県のラムサール条約湿地

■沖縄県以外の日本のラムサール条約湿地

 

■漫湖とラムサール条約

国際的に重要な湿地「漫湖」

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漫湖は国際的な基準のうち、次の3点を満たすことからラムサール条約に登録されることとなりました。

  • 南西諸島に沿って存在すると考えられる渡りのルートの中継地として重要な渡来地であり、都市域に残された干潟として重要(旧基準1d)。
  • 絶滅のおそれるのあるクロツラヘラサギの生息地であること(旧基準2a)
  • クロツラヘラサギの推定個体数の1%が利用する湿地であること(旧基準3c)

漫湖でラムサール条約湿地として指定されているのは、国場川の那覇大橋、真玉橋、それに饒波川の石火屋橋に囲まれた58ヘクタールの範囲です。この範囲は鳥獣保護法に基づく「国指定漫湖鳥獣保護区特別保護地区」に指定されており、地区内での開発行為が規制されています。

日本で11番目のラムサール条約湿地

1999年5月15日、漫湖は国内で11番目のラムサール条約湿地として登録されました。登録は中米の国コスタリカの首都サンホセで開かれていた第7回ラムサール条約締約国会議の期間中に行われ、ラムサール条約の事務局長より認定書が交付されました。登録に合わせて豊見城村(当時)、那覇市、および沖縄県の関係者など20名あまりの訪問団が、沖縄からコスタリカを訪れ漫湖についてアピールしました。

ラムサール条約への登録は漫湖の自然環境の重要性が注目を集めるきっかけになり、市民の間でも漫湖の環境保全に対する関心は高まりました。ラムサール条約に登録された1999年には「ラムサール条約ワークショップ」や「漫湖環境フォーラム」が開催され、登録直前の1999年4月末に開催された「漫湖大清掃」では500人近くもの市民が参加しました。その後、地域や市民団体などからなる「漫湖自然環境保全連絡協議会」が設立(1999年7月)、そして漫湖水鳥・湿地センターが開所(2003年5月)し、ラムサール条約の目的である保全や賢明な利用への理解を深めていくための活動が行われています。

 

参考としたウェブサイト

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