漫湖のマングローブの歴史 | History of the Mangroves in Manko

漫湖は埋め立てや周囲の都市化、上流での開発など環境の変化による影響を受けて、移り変わってきました。一見すると原生的な自然が残っているようにも見える漫湖のマングローブ林ですが、かつては深い入り江や泥干潟であった場所が、最近になってマングローブ林へと変化したことがわかっています。

■「海」とよばれていた時代:戦前~昭和40年代中ごろ

『豊見城村 文化財要覧』の「チーヤ(津屋)」の項目にはかつての漫湖の様子が描写されています。

「かつての那覇三村のハーリーは漫湖口(那覇港側)からチィーヤに向けてハーリー舟を漕ぎ(御願バーリー)、チィーヤに着き、城内の豊見瀬御嶽に参拝したという。ハーリーのゆかりの他であるとともに、かつて漫湖が湖上交通の要衝としてにぎわっている頃の舟着き場でもあった」

 

現在の古蔵中学校付近から撮影された漫湖(1960年ごろに撮影)
撮影:知念かねみ氏

また、明治初年に那覇の街の様子を描いた絵図である『那覇絵図』の現在の漫湖にあたる部分をみると、舟が数隻行きかう様子が描かれていますし、漫湖の昔の様子について近隣の方々に聞き取りを行ったところ、「漫湖は昔「海」であった」「舟が行きかっていた」という話をうかがっています。

聞き取り調査の結果から、昭和40年代の中ごろ(1970年ごろ)まで漫湖が深い入り江であった時代が続いていたことがからわかっています。

■泥干潟の時代:1970年ごろ~1990年ごろ

1970年(昭和45年)ごろになると、漫湖の泥の堆積と干潟化が進みました。水質の悪化や悪臭、ゴミの流入や魚の大量死が問題になり始めたのもこのころで、漫湖で遊ぶ子どもたちの姿はあまり見られなくなりました。また、国場川の両岸や奥武山公園付近で埋め立てが進み、水域の面積は縮小しました。

干潟となった漫湖にはハマシギムナグロなどたくさんの水鳥が飛来し、水鳥たちの「楽園」とよばれるようになりました。1970年代には推定で7,000羽を超える水鳥が越冬したと記録されています。

■マングローブ林の拡大:1990年ごろ~2007年

1994年(平成6年)に漫湖上空で撮影された空中写真を見ると、饒波川河口からサーザ森にかけた干潟にマングローブ林が斑状に分布している様子が読み取れます。その4年前、1990年(平成2年)に撮影された空中写真には、豊見城城跡付近の漫湖の南岸にポツポツと点状にマングローブと思われる影が写っていますが、林とよべるほどに大きくまとまった影は写っていません。2枚の写真の比較から、漫湖にマングローブ林ができはじめたのは1990年代のはじめごろであることがわかります。その後、マングローブ林の拡大はつづき、2000年(平成12年)に撮影された空中写真をみると、とよみ大橋の南側まで達しています。

マングローブ林が拡大した原因については詳しく検討されており、いくつかの要因が重なり合ったためと考えられています。

  • 土砂の堆積: 上流の土地開発などにより土砂が漫湖へと流れ込んだこと。特に赤土流出防止条例が未整備であった1995年以前は多くの土砂が流れ込んでいたため
  • ゴミの投棄や堆積
  • 饒波川河口左岸側の一部が、とよみ大橋の工事用仮設道路によって一時的に閉め切られていたため
  • 1990年代に数回にわたってマングローブの植栽が行われたため

■保全事業によるマングローブ林の伐採:2007~2012年

マングローブ伐採の様子(2011年撮影)

1970年台の後半をピークに、漫湖にやってくる水鳥の渡来数と種数の減少が問題となっていました。水鳥の減少の背景には上流域からの土砂や生活排水などの流入、マングローブ林の拡大と干潟面積の縮小など様々な要因があるのではないかと推測されました。

環境省は、水鳥飛来数の減少要因を把握し、飛来数を回復していくための取組を行う漫湖鳥獣保護区保全事業に2007年度より着手しました。 この「保全事業」では、これ以上漫湖の陸地化が進行しないように、マングローブを一部除去したり、流れを確保したり、鳥の休憩場所を確保したりしました。 マングローブ林内の水の流れを確保することで干潟に土砂などをたまりにくくし、水分を多く含む泥干潟の回復を目指しました。

保全事業は5年間にわたって実施され、のべ76,142.3m2のマングローブ林が伐採されました。 伐採と同時に水鳥の数を調査したところ、漫湖の水鳥たちが少しずつ戻ってきていることもわかりました。 伐採がおわった後の干潟をクロツラヘラサギが利用していることが観察されています。

 

もっと知りたい方はこちらのサイトもご覧ください

  • 「国指定漫湖鳥獣保護区における保全事業検討調査業務」の報告書の一部は「資料室」からダウンロード可能です。
  • 環境の変化はインターネットを使っても調べられます。 国土交通省の『地図・空中写真閲覧サービス』では過去に撮影された空中写真を検索して閲覧することができます。

参考文献

  • 沖縄県文化環境部自然保護課. 2004 平成15年度漫湖地区自然再生推進計画調査事業 報告書
  • 株式会社プレック研究所. 2008 平成19年度国指定漫湖鳥獣保護区における保全事業検討調査業務 報告書
  • 株式会社プレック研究所. 2012 平成23年度国指定漫湖鳥獣保護区における保全事業検討調査業務 報告書